謎の「手紙下書き」(2)

「1929年頃宮沢賢治が書いた宛先不明下書き群」が「高瀬露さん宛て」だと断定できる決め手は何でしょうか。「宮沢賢治全集9 ー書簡」(ちくま文庫)には一切記されていませんので、当記事で考えてみたいと思います。

【資料】昭和4年頃の宮沢賢治による宛先不明手紙下書き群
宮沢賢治が1929(昭和4)年ごろ書いたとされる宛先の判らない手紙の下書き・下書き断片群を掲載しています。記事内に引用すると長くなってしまうため当ページを設けました。手紙下書き252a系(手紙下書き252a)お手紙拝見いたしました。法華をご…

以下に考えついた範囲の「露さん宛てと断定できる理由」を挙げてまいります。

1.「私は一人一人について特別な愛といふやうなものは持ちませんし持ちたくもありません(252a)」「私はいろいろの事情から殊に一方に凝り過ぎたためこの十年恋愛らしい(252b)」等恋愛や結婚に関するような言葉が出ているから

2.「品行の点でも自分一人だと思ってゐたときはいろいろな事がありました。慶吾さんにきいてごらんなさい(252c-1)」のとおり、露さんを賢治に紹介したとされる人物・高橋慶吾の名前が出ているから

3.252cの内容全て、特に「あなたが根子へ二度目においでになったとき私が「もし私が今の条件で一身を投げ出してゐるのでなかったらあなたと結婚したかも知れないけれども、」と申しあげたのが重々私の無考でした」という一節
知りたい人
知りたい人

旧ブログで書いていた「理由」とほとんど同じじゃん…と言いたいところだけど、いくら資料を読み返して考えてみてもこれだけしか「それらしい理由」は思いつかないんですよね。どれも「露さん宛てと考えられる」というならまだしも、「露さん宛だと断定できる」というには弱すぎますよ。

252c・252c-1は「女性宛て」らしい雰囲気があり、露さん宛てと見ていいのではないかと思われるかも知れません。ですが、旧ブログ「悪評の原因について考える(2)」にコメントを寄せてくださった読者の方は「賢治の知人である女性は露さんだけとは限らないのでは」と仰っていました。

全くその通りであり、更に高橋慶吾と共通の知人である女性・恋愛や結婚に関しての話をする女性も露さんだけとは限りません。ですからこの下書き群を「露さん宛て」とするなら、上記のほかに理由といえる部分があるはずなのです。

しかし前記事および当記事冒頭で書いた通り「宮沢賢治全集9 ー書簡」>「高瀬露宛て」ページの備考や解説には「この下書き群を露さん宛てとする根拠」の記述は一切見当たりませんでした。

知りたい人
知りたい人

ってことはまさか…私や管理人みたいな浅学者が考えつくような理由だけでこの下書きを露さん宛てと断定したってことなの!? …いやー、まさか「作家研究」のカテゴリーに入る本でそんな冗談みたいなことを本当にやってしまうなんてねぇ…。

手紙下書き252a系は「法華経を信仰している人物」に宛てて書いています。高橋慶吾以外の悪評系はこの下書きを根拠に「露さんは賢治の気を引くために法華経への転向を仄めかしたが思う通りにいかず、そのことを恨みに思い賢治を中傷して歩くようになった」などと主張しています。

この下書きから分かることは以下の3点です。

  • 宛先の人物は以前から賢治と面識がある
  • 宛先の人物は「(下書きが書かれた時点で)既に法華経を信仰している」
  • 賢治は宛先の人物に割と好意的に接している
知りたい人
知りたい人

法華経への転向を仄めかす言葉に対する返事が「法華をご信仰なさうですが」なのはちょっと不自然だよね。「ご信仰を法華にお変えになるとのこと」みたいな感じになるはずだよ。

露さんも社交辞令的な意味で法華経へ興味を示す言葉を口にしたことがあったかも知れません。しかし実際露さんは19歳から帰天までの50年近くもの間、キリスト教への信仰を貫きました。遠野カトリック教会の台帳にも帰天日(1970年2月23日)が記されています。

下書き252a系は露さん宛てではなく全く別の人物に宛てて書かれたもの、私は高橋慶吾宛てだと推測します。その理由は「悪評の「出どころ」」で引用した高橋のプロフィールに「賢治の影響により仏教を信仰」とあるからです。

高橋が仏教を信仰し始めた時期はいつか・信仰したのは法華経なのかは判りませんが、賢治の影響であるなら法華経を信仰するのが妥当だと思いました。

知りたい人
知りたい人

1929(昭和4)年って、賢治は病気で臥せっていた時期なんだよね。だからこの下書きは「現実にいる誰かに宛てたものではなく、暇つぶしで架空の人物に対して書いたもの」という可能性もあるんじゃないかなって思うんだけど…うーん、流石に考えすぎかな?

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