当記事より「ライスカレー事件」に関して考えていきたいと思います。

「ライスカレー事件」といえば、主に悪評系文献で「宮沢賢治と高瀬露さんの間に起こった一大事件」みたいな取り上げ方をされている印象があるね。出来事の内容は大体知っているけど、各文献でどう描かれているか改めて見てみたい。
この出来事を自著で取り上げ「登場人物の心情」までも具体的に記述しているのは森荘已池・儀府成一のお二人です。出来事だけを見ていく当記事においてノイズとなる「登場人物の心情」を省いても引用部分が長くなってしまうため、別にページを設けて引用しております。


「登場人物の心情」を省いても長くなっちゃったね。儀府文献なんて(略)が多くてツギハギみたいになってる…。管理人、一連の内容をできるだけ簡潔に書いてみてよ。
ある日、羅須地人協会に数名の客が訪れ、二階の部屋で賢治を囲んで話をしていた。その頃羅須地人協会の台所では露さんが炊事をしていた。
お昼になると、露さんは二階の部屋に人数分のライスカレーを運んできた。来客は露さんの姿に驚いた様子を見せ、賢治はそれを気まずく思いながら「この人は湯口村の小学校の先生です」と来客に紹介した。露さんは人々にライスカレーを配り、来客は食べ始めたが賢治は口にしようとしなかった。何回目かの露さんのすすめに対し賢治はこう答えた。
「私にはかまわないでください。私には食べる資格などありません」
その言葉に露さんは落胆した表情を浮かべ、ふいと一階に降りていった。しばらくしてオルガンの音が聞こえ始めた。賢治は一階に降り、オルガンを弾く露さんに言った。
「みんな昼間は働いているのですから、オルガンは遠慮してください。やめてください」
しかし露さんは賢治を見ることもなく、オルガンを弾く手を止めようとしなかった。
この出来事は前回取り上げた「頻繁に訪問してくる女性に辟易した賢治が取った行動」と同じく「元ネタ」があるのですが、それはまた後日「元ネタを発信した人物」と共にご紹介したいと思います。

しかし…露さんの「悪評」を信じていた時から思っていたけど、これは露さんが可哀想すぎるよ。だってこれ「公開処刑」といってもいいやり方だもん。それに森文献も儀府文献もなんか「大恥をかかされた露さんを嘲笑っている」って感じがして、すごく不愉快なんだよね。
この出来事も「露さんの頻繁な来訪伝説」同様、いくつか疑問点が浮かんでくるのです。まずは、上田哲さんが指摘する疑問を引用します。
不思議なことにこの出来事のあった年月日時は不明である。いつごろと漠然とした程度の時もわからない。また、この物語りの主人公は、賢治と高瀬露である。それに数人の賢治を訪ねてきた農民たちがいるが、それは誰だかわからない。 戦前から有名になっていた話なのだからあの時いたのは、俺れだぐらい言ってもよさそうだが、とうとう名乗り出なかった。それに、この事件が事実なら仰天した農民たちとは別に冷静に客観的に一部始終を見ていた人物X氏がいたはずである。そういう人物がいなければこの話は伝わらなかったはずである。それが誰だかわからない。これも不思議である。森荘已池氏も、その場にいなかった。あとで詳しく述べるが、この話の最終的情報源は、今のところ高橋慶吾にたどりつきそこで止まってしまうが、それより先はわからない。高橋慶吾は、そこにいたのは自分であるとは言っていない。あるいは親しい人には、話したかも知れないが、少くとも文献的にも、あるいは誰かの証言という形でも遺っていない。
上田哲「「宮澤賢治伝」の再検証(二)ー<悪女>にされた高瀬露ー」 1996(平成8)年
上田さんの指摘する疑問点を整理して箇条書きにします。
- ライスカレー事件はいつの出来事か
- 現場に居合わせていたのは誰なのか
- 客観的に現場を見ていたのは誰なのか

そして、私と管理人がこの出来事に対して抱いている疑問を以下に挙げます。
- 賢治は早朝からライスカレーが運ばれてくるお昼まで別宅内をウロウロしていたはずの露さんを何故放置していたのか?
- 以前から疎ましく思っていた人の料理を拒絶するのに「食べる資格はない」という言葉はおかしいのでは?
- そもそも露さんは「この日集まりがある」という情報をどこで誰から得たのか?
次回の記事から、これら疑問点を考えていきたいと思います。

