悪評の原因について考える(1)

「七尾論叢」11号の上田哲氏の論文は残念ながら未完のまま掲載されており、ライスカレー事件の有無同様、何故このような悪評を流されたかについての検証や考察はなされないままとなってしまいました。

上田氏の論文及び小倉豊文氏の「雨ニモマケズ手帳新考」を読んでいくと、悪評の出所は全て高橋慶吾という人物に行き着きます。高橋慶吾氏からの情報が関登久也氏、森荘已池氏、儀府成一氏に渡り、尾鰭が付いて行ったことはこれまでも述べてきました。

キリスト教という縁で高瀬露と知り合い賢治と高瀬露の縁をつないだ張本人、そして高瀬露の悪評の出所である高橋慶吾氏は、高瀬露に私怨でも抱いているんじゃないかと邪推してしまうくらいに、高瀬露の「愚行」を得意げに語っているように見えます。
その高橋慶吾氏という人物はどういう人なのでしょうか。

また、

そのこと(引用者注・高瀬露の愚行やそれに対する賢治の行動などに数々の疑問点や矛盾点が出てくること)を古くからの賢治研究家である鏑慎二郎に話したところ、わたしもあなたと同じような疑問をもっていました。どうもこの話は作り話臭いところがあります。火のないところに煙は立たないから全部否定はしませんがといって次のようなことを語ってくれた。

昔、田舎は娯楽が乏しかったので男と女の間のことについての噂話は大きな娯楽でした。それほどのことでない話も村中をまわりまわっているうちに拡大され野卑な尾鰭背鰭がいくつもついてバトンタッチ毎に変形されるから元は一つの話でもあきられず村中を何回もまわることがあります。高瀬露が賢治のところをしばしば訪ねていたとしたら、こういう噂話の好きな人々の間では恰好の材料だっただろう。

(中略)

ただ、田舎におけるこの種の話は直接的でいくら尾鰭がついても基本的には、単純な構成であるのに賢治と露の話はストリー性があるんです。それから田舎のこういう噂話は大体、村や部落の範囲をめぐっているだけなのに賢治と露の話の場合は、間を飛んで町の方しかも賢治にかかわりをもつ人々の住む町に伝わっているんです。この噂話は、田舎の人が作ったのではなく……あるいは田舎の人でも都会生活の経験者が作ったのかも知れない。また、伝わり方も誰かあやつっている人がいるような気もする。

このような内容であった。現代的にいえば何者かがシナリオを作り、意図的な情報操作が行なわれていたようだという指摘である。
(上田哲「七尾論叢11号」所収「「宮澤賢治論」の再検証(二)―<悪女>にされた高瀬露―」より)

という指摘のように、悪評の内容・伝わり方にも不可解な点があります。

また、非常に興味深いのが上田氏の論文に掲載されている、高瀬露の娘の幼馴染みであるE.K氏の「後輩や若い人には、先輩としての義務観から忠告や注意をして誤解されるようなこともあった」という証言です。高瀬露の悪評の原因は、彼女のこういう一面が鍵になっているような気がします。

まずは高橋慶吾氏という人物を見ていき、それから悪評の出た原因や悪評が広がってしまった原因を考えていきたいと思います。
ただ、手元にある資料のみを元にした私の推測が多分に含まれてしまうので「きちんとした検証」とは言えないものであることを先にお断りしておきます。

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